| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S06-2 (Presentation in Symposium)
摂食行動は動物の生存に必要不可欠な行動である。摂食行動の中でも特に同種他個体を捕食する行動のことを共食い(cannibalism)と呼び、これは生得的な行動であると考えられている。共食い行動は、無脊椎動物から脊椎動物に至るまで幅広い動物群で観察されており、生存戦略において合理的な行動であるとされる。また、共食い行動は同種を捕食することから、他個体を同種であると認識する機構や、あるいは集団において共食いを促進または抑制する機構など、共食い行動に関連する認知様式が存在していると考えられる。しかしながら、動物の共食い行動の分子的な制御機構の詳細は殆ど明らかになっていない。
ショウジョウバエの幼虫においても、個体密度が非常に高い時や、飢餓状態に晒された時に共食い行動を示すことが知られている。通常、ショウジョウバエ幼虫は共食いをしないため、行動を制御(抑制)する機構があると考えられる。しかし、この共食い行動制御の詳細な分子機構は不明である。今回、我々はショウジョウバエ幼虫において、嗅覚感覚受容体と味覚感覚受容体の二重変異体が共食い様行動を示すことを見出した。この二重変異体幼虫は、単独(一匹)で飼育すると発生遅延を示さないが、集団で飼育すると著しい発生遅延や成虫の形態異常を示した。さらに、コントロール系統(w1118)と二重変異体の幼虫を同じ培地で飼育すると、コントロール系統の発生が顕著に遅延した。これらの結果から、二重変異体の幼虫が他個体の発生遅延を引き起こしていることが示唆された。さらに幼虫行動を詳細に観察した結果、二重変異体は共食い様行動を示すことが明らかとなった。以上より、二重変異体による共食い様行動が他個体にストレスや損傷を与えた結果、発生遅延が生じたと推測している。本発表では、化学感覚刺激がショウジョウバエ幼虫の共食い様行動をどのように抑制しているかを議論する。