| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S06-4  (Presentation in Symposium)

昆虫にペアボンドはあるか?: 配偶前後で変化するクチキゴキブリペアの共闘行動【O】【S】
A pair bond in insects: cognitive ecology of mutual wing-eating in a wood-feeding cockroach【O】【S】

*大崎遥花(NC State University), 菊池顕生(OIST)
*Haruka OSAKI(NC State University), Kensei KIKUCHI(OIST)

社会性生物における社会とは同種個体が協力的に組織した集団と定義され、協力的とは主に子の保護における協力を指す。つまり社会性の要は子育てであり、特に両親で子を保護する種ではペアの維持や協力が以後の繁殖成功に重要である。これまでつがいを形成する鳥類や哺乳類など脊椎動物では配偶個体間の排他的なつながりであるペアボンドが報告されてきた。一方、無脊椎動物では優先的な繁殖相手の報告に留まる。しかし無脊椎動物でも哺乳類や鳥類と同様の配偶システムや社会行動を持つ生物は存在し、ペアボンドの存在とそれに必要な認知能力が十分に推測された。我々は両親で子育てを行う亜社会性昆虫の一種、タイワンクチキゴキブリSalganea taiwanensisに注目した。本種は雌雄が配偶時に互いの翅を食べ合ってなくすという独特の配偶行動があり、翅の食い合い後はペアとなり雌雄ともに子に給餌を行う。実験では翅の食い合い前の4ペア、翅の食い合い後の10ペアに対し翅のある成虫を導入し、各ペアの行動を1時間録画した。その結果、翅の食い合い前のペアは侵入個体への攻撃がなかったのに対し、翅の食い合い後のペアでは前胸背板で侵入個体を押す闘争行動がほぼすべてのペアで見られた。ペアのうち侵入個体と同性の個体が闘争するだけでなく、侵入個体を雌雄共同で押し出す「共闘行動」も発見された。共闘は侵入メスに対しては10ペア中8ペア、侵入オスに対しては10ペア中7ペアで見られた。配偶後に共闘という排他的行動が多く見られたことから、無脊椎動物で初めてペアボンドを示すことができた。また、本種のペアボンド形成には翅の食い合いが関わっていると考えられ、この配偶行動に認知生態学的意義がある可能性が浮上した。共闘はさらに侵入個体と配偶個体という同性2個体を区別できることを示唆しており、本種や近縁種との比較などを通して社会性昆虫の認知能力の解明が期待できる。


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