| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S07-2  (Presentation in Symposium)

新生神経細胞のチェーン移動の数理モデリング:異質な集団は速いか?【O】
Mathematical modeling of neuroblast chain migration: is a heterogeneous swarm fast?【O】

*脇田大輝(東北大・通研)
*Daiki WAKITA(Tohoku Univ.)

いつも同じ速さで歩く集団よりも、休んだり走ったりする集団のほうが、環境によっては速く移動するのだろうか? 本発表では「新生神経細胞の集団移動」を題材にして、この可能性を提唱する。哺乳類の成体脳で起こる神経再生は、医学や神経科学における主要なテーマである。マウスなどを用いた生物学的研究によると、ある脳領域で新生した神経細胞は、チェーン状の集団を作り、他の脳領域へと移動して分化する。移動時の周囲環境には多数のアストロサイトが張り巡らされ、新生神経細胞と相互作用することが知られる。発生過程の脳に比べて、成体脳は細胞が移動しにくい環境だが、新生神経細胞は少なくともチェーン形成や環境との相互作用を通じて移動を効率化していると考えられる。しかし、生物学のツールでは個々の細胞を長期的に追うことが難しく、どのような要素が関わり合って移動の効率化に貢献するのかについては未解明の点が多い。そこで本発表では、生物学的知見に基づいて、新生神経細胞とアストロサイトの挙動を数理モデルで表現する。続いて、二種類の細胞を混在させたシミュレーションから、新生神経細胞の長期的な移動効率を可視化する。数理のツールによって見えた第一の提案として、「単独の新生神経細胞よりも、その集団のほうが速く移動するメカニズム」を挙げる。第二の提案として、「新生神経細胞の活動が一定の集団よりも、時間変化する集団のほうが速く移動するメカニズム」を挙げる。細胞移動という研究対象から、本集会のトピックの一つである「ゆらぎがもたらす集団機能の創発」について考察する。


日本生態学会