| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S07-3  (Presentation in Symposium)

個体間相互作用が生み出す集団内異質性とその進化的帰結:社会性昆虫での事例【O】
Causes and evolutionary consequences of within-group heterogeneity: a case study in social insects【O】

*土畑重人(東京大・院・総合文化)
*Shigeto DOBATA(Univ. Tokyo)

社会性昆虫のコロニー内では,個体間に表現型の顕著な多型がみられる.それぞれの表現型(カースト)は,繁殖や協調行動における分業体制の要素になっており,不均一な群れが生み出す創発現象の典型例である.本発表では,コロニーで観察される創発現象の発生・生態・進化を,時間スケールに対応した以下の3フェーズに分けて議論する.▼<創発>:個体寿命より短い時間スケールに相当する.個体間の,また個体と外部環境との間の発生学的・生態学的相互作用によって,表現型における個体間のわずかなゆらぎが増幅され,安定した表現型の多型が生じる.発表では,分業の古典的な自己組織化モデル「反応閾値強化モデル」を用いて,遺伝的に完全に均一なコロニーにおいても表現型の異質性が創発することを例示する.また,異質性の創発とその機能性は,本質的に独立であることを主張する.▼<展開>:相対的に短い進化的変化の時間スケールに相当する.創発現象が群れレベルでの適応的機能を持ち,構成パラメータに遺伝分散があれば,システムの進化的な改善が期待される.発表では,アミメアリにおける「インダイレクトーム」ゲノムワイド関連分析を例に,マルチレベル選択の遺伝的基盤の実態を紹介する.社会性昆虫では,多細胞システムとは異なり,コロニー内は一般に遺伝的に不均一である.コロニーの遺伝的不均一性に基づく適応現象についても概説する.▼<試練>:相対的に長い進化的変化の時間スケールに相当する.ここでは,創発システムには内部から寄生者が進化するリスクがあることを述べる.内部寄生変異体は,迅速に集団内に広まり,創発システムの進化的な長期存続を妨げる原因となる.発表では,アミメアリにおける「社会のがん」個体に関する演者らの研究を紹介する.このリスクの普遍性を踏まえて,演者は,長期存続はできないが高い効率性を備えた創発現象が,生物界に多数潜在することを予想する.


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