| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S07-5  (Presentation in Symposium)

ショウジョウバエの集団心理を制御するゲノム変異とその多様性【O】
Genomic variation and diversity underlying the "safety in numbers" of flies【O】

*佐藤大気(千葉大・IAAR)
*Daiki SATO(Chiba Univ.)

多くの動物は群れや社会を形成し、しばしば、集団行動と呼ばれる特有の群れ行動を示す。これまで、数理モデリングや行動観察に基づく実証的研究により、集団行動を可能にする個体の行動原理やパラメーターが明らかにされてきた。しかし、集団行動の基盤となる遺伝的要素は、ほとんど解明されていない。これに対して、これまで個体レベルに限られていたゲノムワイド関連解析を集団レベルに拡張することで、集団行動といった高次現象のメカニズムを分子レベルで記述できるだけでなく、その進化プロセスについて詳細な理解が可能となると期待される。本研究では、ゲノム配列が既知である104系統の近交系キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて、捕食者を模した視覚刺激に対するFreezing行動に焦点を当て、集団内における個体間相互作用、特に他個体に対する視覚的な反応性を定量した。この形質に対してゲノムワイド関連解析を行なった結果、視覚神経の発達に関わる遺伝子群が有意に検出された。そこで、Gal4-UASシステムにより、関連が示唆された視覚神経の神経伝達を阻害した変異体を用いて同様の行動実験を行なったところ、実際に他個体への反応性が低下することが確認された。次に、集団内における遺伝的多様性がハエの集団行動に与える影響を検証するため、異なる系統を混合した集団を用いて同様の行動実験を行なった。その結果、遺伝的に多様な集団は画一的な(単系統の)集団に比べて、刺激直後のFreezingが強まることが示された。これは、異質な集団内において、他個体に対する同調が迅速な行動変化を引き起こしたためであると考えられる。本発表では、これらの結果をふまえ、ハエの視覚的な反応を題材として、集団行動における個体間多様性の意義や、その遺伝基盤および進化について議論したい。


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