| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S08-2 (Presentation in Symposium)
巨樹は長い年月を生存するにつれて樹体の表面積が増加するだけでなく、枝葉(樹冠)が三次元的に発達して林冠の多様な環境を形成し、それを利用する生物との相互関係において林冠生態系を創出する。着生植物は林冠生態系の主要な構成要素であり、宿主木のサイズが大きくなるにつれて種数やバイオマスが増加することが、日本の森林においても確認されている。通常の生活史において樹上のみを生育地とする真正着生性の植物の多くは、巨樹もろとも希少種となっている。しかし各地の残されたいくつかの巨樹では、真正着生性の維管束植物が比較的大きな個体群として確認され、希少植物のハビタットとしての潜在性がその地域固有の局所的な種多様性の保全に重要であるといえる。一方で、そのような巨樹上では、地上を優先的な生育地とする偶生着生性の維管束植物も多く出現している。森林が成熟して林床が暗くなり、近年顕在化しているニホンジカの過採食による下層植生の消失に対して、日照条件が良く被食を免れる巨樹の樹冠上がレフュージアとして機能していることが示唆された。偶生着生植物は現在の日本の森林における生態学的役割が大きく、日本の温帯林の特徴的な着生植物群集であると考えられる。地上の植物が樹冠上にも着生できる要因の一つとして、巨樹の樹冠形成にともない樹上に堆積した林冠土壌(腐植層)が重要であり、着生植物に必要な栄養塩の供給が、樹上の環境に応じた微生物群集によって支えられていることが明らかとなってきた。また巨樹の樹冠表面では、微小で成長が遅くて長寿であり、樹冠先端の枝の樹皮上などの限られた二次的空間においても生存可能な地衣類や蘚苔類といった非維管束植物種が優占する。定性的な重要性の認知に加えて、存在量や分布特性、生活史や生態系機能への影響を定量的に評価することで、林冠生態系の包括的な理解を進めていく必要がある。