| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S08-3 (Presentation in Symposium)
維管束着生植物の種多様性・分布に影響する要因についてこれまでに,様々な空間スケールを対象に研究が行われてきた。広域スケールでは気温や降水量などの非生物的要因が,林分スケールでは,垂直方向への空間の広がりに着目すると湿度や光環境などの非生物的要因が影響することが報告されている。しかし,林分スケールでの水平方向への空間の広がりに着目すると,宿主木のサイズや樹種などの生物的要因が影響することが報告されている一方で,非生物的要因の影響を検討した研究は少ない。林分スケールであっても,地形の不均質性などに起因して非生物的要因に勾配が生じる。例えば,尾根―谷勾配は湿度や風速の勾配を,標高勾配は気温勾配を,斜面方位の違いは光勾配を生じさせると考えられる。これらの地形勾配が,着生植物の種多様性・分布に影響している可能性がある。本研究では,林分スケールにおける着生植物の分布が,尾根―谷勾配,標高勾配,年合計日射量勾配,宿主木サイズのうちどの要因の影響を強く受けるのか明らかにすることを目的に調査を行った。52 ha の小集水域(暖温帯天然林,標高勾配378~777 m)において,310本の樹木を調査し,樹木の種名,DBH,個体位置,その樹上で生育する着生植物の種名を記録した。着生植物の在・不在を応答変数,樹木のDBH・樹種,樹木の個体位置から推定された尾根―谷度,標高,年合計日射量を説明変数としたモデルを構築し係数を推定した。また,尾根・斜面・谷の3地点で空中湿度を計測し,3点間での湿度の違いを確認した。その結果,着生植物の出現確率は,尾根より谷で,小径木よりも大径木で高かった。DBHよりも尾根―谷勾配のほうが着生植物の分布に強く影響していた。空中湿度は,谷で高く尾根で低かった。以上のことから本研究では,林分スケールにおける着生植物の分布には,宿主木のサイズ・樹種だけでなく,地形勾配も影響することが明らかとなった。