| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S08-4  (Presentation in Symposium)

ランはなぜ木に登ったか?ラン科の生活形進化に及ぼした菌類のインパクト【O】
How did orchids manage to climb trees? Impacts of fungi on the evolution of evolution of life forms in the Orchidaceae【O】

*遊川知久(国立科博・植物園), 蘭光健人(東大院・創域), 堤千絵(国立科博・植物園), 山下由美(福島大・理工), 辻田有紀(佐賀大・農)
*Tomohisa YUKAWA(Bot.Gard.,Natl.Mus.Nat.Sci.), Kento RAMMITSU(Fac. FrontierSci., Tokyo Univ.), Chie TSUTSUMI(Bot.Gard.,Natl.Mus.Nat.Sci.), Yumi YAMASHITA(FSSS, Fukushima Univ.), Yuki OGURA-TSUJITA(Fac. Agr., Saga Univ.)

 着生植物にとって菌類との共生は、樹上の強い水および栄養ストレス回避等への菌類の貢献が予想されるものの、これまで看過されてきた。着生維管束植物種の67%(約19000種)を占め、特定の菌系統群との共生が成長に必須のラン科は、植物が樹上進出する過程において菌類が与えたインパクトを検証するためのすぐれたモデルである。一方、植物界最大の科のひとつラン科の68%の種は着生で、祖先形質である地生から着生へ30回を超えるシフトがあったと推定される。ラン科の多様性創出において、樹上への生活形進化がカギを握っている。
 これまでの研究から、ラン科の共有派生形質である1)生活史初期の絶対菌共生、2)微細種子、3)担子菌門の腐生性を有する特定の分類群との共生が、ラン科着生進化のキーイノベーションになっている可能性が高いことが明らかになった。すなわち、科の共通祖先段階において、菌類から栄養を摂取する菌従属栄養性を獲得したことにより、水および栄養ストレスを軽減することができた。また種子発芽時の絶対菌共生は、胚乳などの栄養を欠く種子微細化を導き、種子の樹上散布を可能とした。さらにラン科共通祖先において共生菌が、維管束植物の約80%の種が共生するグロムス門から担子菌門の特定の分類群(ツラスネラ科、ツノタンシキン科、ロウタケ科の一部系統群)にシフトした。グロムス門など菌根共生を担う大部分の菌類は、生きた植物との共生が生存に必須なのに対し、大部分のラン科共生菌は腐生性を有するため、樹皮、腐植など死物を栄養源とし樹上で生活しうる。ラン科着生種の共生菌多様性は断片的にしか明らかになっていないものの、地球上のあらゆる地域において属レベルでは概ね地生種の共生菌多様性に内包される。このことから地生のラン科共通祖先が、地上と樹上の両方に分布する腐生菌系統群との共生能を獲得したことが、ラン科着生進化の前適応となった可能性が高い。


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