| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S10-1 (Presentation in Symposium)
種子食者がどのように植物のマスティング現象に適応しているのかに関する研究例は非常に少ない。特に、主要な種子食者の一つである種子食性昆虫は、哺乳類や鳥類など他の種子食性動物に比べて寄主特異性が高い場合が多く、長い期間寄主植物の種子生産が乏しいと容易に絶滅することが想像される。したがって、マスティング植物を寄主とする昆虫は何らかの対抗適応を進化させてきたと考えられる。
本発表では、まず「一斉開花」という群集レベルのマスティング現象で知られる東南アジアのフタバガキ林での研究成果を紹介する。フタバガキ科の主要な種子食昆虫はゾウムシ類(ゾウムシ科、ホソクチゾウムシ科)であるが、これらがフタバガキ科以外の代替寄主を持つのか、もしくは次の一斉開花まで数年間休眠することができるのかを検証した。フタバガキ科と同所的に生育する非フタバガキ科79種の種子食昆虫相を調査した結果、フタバガキ科を利用するゾウムシと同種のものを非フタバガキ科から見つけることはできなかった。一方で、フタバガキ科を利用するゾウムシの羽化時期には種によって大きなばらつきがあり、種子散布後2ヶ月以内に羽化する種から、2年以上幼虫として土中で生存する種もあり、種によって成虫もしくは幼虫で次の一斉開花まで休眠していることが考えられた。
また、多種対多種のフタバガキ林の例とは対照的に、1種対1種の関係である東広島市鷹ノ巣山ブナ林での研究成果を紹介する。このブナ林では、ブナヒメシンクイ(ハマキガ科)が豊作年でもブナ種子の約80%を食害する。しかし、羽化トラップの調査ではブナヒメシンクイの休眠延長は確認できず、林内にはブナ以外の寄主植物もないため、どのように凶作年に個体群を維持しているのかはやはり謎である。このような単純な系で種子生産量と種子食昆虫個体数のモニタリングを行うことが、マスティング植物と種子食昆虫の関係性を理解する上で重要であろう。