| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S10-3 (Presentation in Symposium)
液果をつける植物は、魅力的な果実をつけると同時に、安定的な果実生産を行うことで種子散布者を引きつけていると考えられてきた。しかしながら一方で、果実や種子に捕食者がいて、その影響が大きい場合には、マスティングのように、個体間で同調した大きな果実生産の年変動があるほうが有利になるとも指摘されている。
京都市近郊二次林で優占的な鳥散布樹木であるバラ科カナメモチは、花や果実の生産に大きな年変動がみられる。これまでの研究により、このカナメモチには、果実の成長フェノロジーと同調した生活史をもつスガ科のセジロメムシガが高率で寄生していることが明らかとなっている。セジロメムシガの幼虫が他のバラ科果実から見つかったことはなく、メス成虫に複数種のバラ科果実を与えても、カナメモチに産卵選好性を示していた。カナメモチの全分布域を網羅するよう岐阜・京都・奈良・滋賀・兵庫・徳島・香川・広島・九州天草(上島・下島)でカナメモチ果実をサンプリングし、果実・種子内を摂食していたセジロメムシガ幼虫各20個体のmtDNAのCOIバーコーディング領域の塩基配列を解析したところ、21個のハプロタイプが検出され、ハプロタイプ多様度は0.823、塩基多様度は0.00198となっていた。ハプロタイプの分布に明瞭な偏りは認められず、集団内に多様なハプロタイプが見られたが、地理的な距離と遺伝的な距離には有意な正の相関があった。カナメモチの葉緑体DNAで報告されたものと同様に、天草上島・下島間のセジロメムシガの遺伝的距離は大きく、天草下島と本州の最も離れた遺伝的距離と同程度となっていた。以上より、セジロメムシガは、カナメモチ果実・種子を捕食するスペシャリスト昆虫であり、その関係性は古いことが示唆された。発表では、このセジロメムシガがカナメモチの果実生産の年変動にどのような影響を与えていたのか9年間の結果についても紹介したい。