| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S10-4 (Presentation in Symposium)
日本産ブナ科22種のうち12種は、開花翌年の秋に果実(堅果)を成熟させる。この性質を2年成と呼ぶ。これまでの研究で、2年成の樹種のうちカシ類と呼ばれるアカガシ節のアカガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシでは隔年結実(2年周期の同調的結実)が顕著であることを明らかにしてきた。これら3種の隔年結実は隔年の開花によりもたらされる。また、気象などの外的要因や個体の純生産量との関係もなく、何らかの適応的意義の存在が示唆される。さらに、この隔年結実は2年成ブナ科樹種に共通のパターンではなく、マテバシイ属やシイ属では報告されていない。
堅果を利用する昆虫の一種、ハイイロチョッキリは、堅果への産卵後に枝ごと切り落とすという特異な行動をもつ。この行動は、2年成樹種にとって2年分の繁殖投資の損失に繋がりかねず、繁殖成功に大きく影響すると考えられることから、カシ類の隔年結実の究極要因を解く鍵をこの昆虫が持っているのではないかと考えた。
そこで、まず2年成樹種の堅果へのハイイロチョッキリの選好性を調査したところ、カシ類を含むコナラ属では高い一方で、マテバシイ属やシイ属ではほぼ皆無であり、大きな偏りがあることが分かった。また、堅果をもつ繁殖枝の形態を調査したところ、ハイイロチョッキリの選好性の高いカシ類では繁殖枝の多くが当年枝をもたない隔年伸長型だったのに対し、選好性の低いマテバシイ属とシイ属では連年繁殖型の割合が高かった。
以上のことから、隔年結実はハイイロチョッキリへの枝切りへの適応であり、枝切りによって2年分の繁殖投資を失うことを回避する効果を有するのではないかと考えた。現在、この仮説の検証のため、歴史的にハイイロチョッキリの生息しない地域にある沖縄県与那国島でウラジロガシの繁殖枝の形態等を調査している。まだ十分な標本数がなく、明確な結論を導けないが、現在までに得られたことについて紹介したい。