| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S11-2 (Presentation in Symposium)
人々がどのように生物多様性を認識・評価しているかを理解することは、生態系サービスを十分に活用するために重要である。特に昨今、生物多様性が持っている地域固有の生態学的・社会的価値の重要性が指摘されつつある。しかし、地域単位での保全政策を制定する主要な単位である自治体が、実際にどの程度生物多様性を認識しているのかは未だ明白ではない。本研究では、生物および生態系サービスに対する自治体の認識を測る新しい指標として、日本の市が制定する「市の花」に注目した。計591の自治体の公式ホームページや例規集から、市の花の名前、制定年、制定理由を収集し、合計で696例、156種類の花のデータを得た。この制定年は半世紀以上にわたるため、自治体レベルで、地域的に重要な花に対する認識の時系列的な変化を捉えることが可能である。制定年には1993年を境に2つの主要なピークが存在しており、1993年以降に制定された花の種類はそれ以前よりも、顕著に高い多様性を示すことが明らかになった。この増加は、人気のある花(ツツジ・キクなど)に対するバイアスの減少と、比較的人気のなかった花に対する関心の高まりに起因する。制定理由の分析から、この時系列的な制定花の変化は、地域性のない単なる親しみや精神性よりも、市の自生種・固有種であるといった生態学的な関わりや、市の特産品や観光資源であるといった経済的な関わり、市の歴史的な逸話や出来事にまつわる文化的な関わりを重要視するようになったためであることが示唆された。これらの結果から、生物との間に持つ地域固有の生物学的、社会的、または文化的な関係に対する認識の増加傾向が示された。