| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S13-1 (Presentation in Symposium)
植物は一度経験した環境ストレスを記憶し、二回目以降のストレスに対する耐性を高める仕組み(プライミングまたは順化)を持つ。記憶の分子実体として最も注目されているものが、DNAを格納するクロマチンに施される化学修飾、つまりDNAメチル化とヒストン修飾である。本講演の前半では、熱ストレスを例として、ストレス耐性遺伝子の発現制御の観点からプライミングの仕組みについて論じる。特に、ストレス記憶において、二つのタイプの記憶が存在することが知られているが、それらの仕組みの自然環境における適応的意義について考察する。
プライミングの他に最もよく研究が進んでいる環境記憶システムの一つが、花成制御における春化応答である。モデル植物シロイヌナズナの冬季一年生ecotypeでは、植物が冬の長期低温を経験すると、花成抑制遺伝子FLOWERING LOCUS C(FLC)の発現が低下し、それに伴い抑制型ヒストン修飾H3K27me3がFLC遺伝子領域に蓄積する。気温が上昇した後もH3K27me3の蓄積およびFLCの発現低下は維持され、植物は花成を誘導できる状態となる。本講演の後半では、被子植物において広く保存されているFLC制御の適応的意義について考察したい。