| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S13-4 (Presentation in Symposium)
樹木は永年性で巨大なボディーをもつことから、様々な器官や場面でゲノムの“メモリー機能”がはたらいていると予想される。例えば苗木生産では、「苗木を甘やかして育てると山に植えたときストレスに負けて枯れてしまう・・・」のような話があり、その原因が、これまでは徒長や根の分岐などの成長過程で生じた形態的機能の違いによると考えられてきた。しかし最近のエピゲノム研究では、環境ストレスで誘導される遺伝子群のエピジェネティック調節との関わりが示唆されている。その他にも、モデル植物の知見と樹木を照らし合わせてみれば、発芽、形態形成、光合成、花成など、ライフサイクルのありとあらゆる場面でエピジェネティック調節のもとに樹木は樹木らしい成長をしているのだろうと考えられる。そのなかでも樹木の長寿命である特徴は興味深い課題のひとつである。日本の人工林管理では長伐期化の流れがあり、針葉樹の老齢木における成長現象とエピジェネティック調節との関係は、老齢化が招く諸問題を解決するヒントを与えてくれるかもしれない。
樹木のエピジェネティック調節を検証するにあたっては、モデル植物のように遺伝子の組換体解析での検証が困難である。しかし近年、エピジェネティクスの分子メカニズムの解明が進み、モデル植物から非モデル植物まで様々な植物種で行われているオミックス解析によって、植物全般でエピジェネティクスを指標できる遺伝子発現やDNAメチル化のパターンが明らかになりつつある。そして、樹木でも遺伝子発現の断片的データに基づいてエピジェネティック調節に関してある程度の考察が可能になってきた。本発表では、樹木の成長現象にみられるそんなこんなを、樹木の成長を観察してきた経験とエピジェネティック調節の知見を通して考察してみたので紹介する。