| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S15-1  (Presentation in Symposium)

保護増殖事業対象種の状況をゲノム情報でどのように理解するか【O】
How to understand species targeted for conservation and propagation programs through genomic information【O】

*井鷺裕司(京都大学), 渡辺勝敏(京都大学), 中濱直之(兵庫県立大学)
*Yuji ISAGI(Kyoto Univ.), Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ.), Naoyuki NAKAHAMA(Hyoto Univ.)

 保護増殖事業対象種等、生存個体数が少ない希少種の保全に関しては、法的枠組みの整備や人為インパクトの適切な管理などの社会的な項目に加えて、生息地の保全、個体群動態のモニタリングなど生物学的・生態学的な要因、また適切な保全単位の設定、遺伝的多様性の維持、近交弱勢の回避などの遺伝的な要因を考慮した適切な施策が必要である。2010年代以降、モデル生物だけでなく野生生物においてもゲノムレベルの遺伝情報解読が可能になり、従前の保全遺伝学的アプローチを超える新たな保全策を実施することが可能になってきた。
 例えば、有効集団サイズに関しては、ゲノム情報を活用することで、数百万年前からの個体群動態が解析可能である。さらにここ数年で一般的になったGONEなど連鎖不平衡の情報を利用する解析では、過去からほんの数世代前までの個体群動態が解析可能であり、これは多くの絶滅危惧種が近年の人為インパクトによって危機的な状況となっていることからも極めて有益な情報といえる。また、保全遺伝学的アプローチで頻用されてきたヘテロ接合度に基づく遺伝的多様性の評価は、近交弱勢のリスク評価において極めて有効であったが、ゲノムレベルの情報を用いることで、ゲノム全体に蓄積した有害変異の量の比較解析や、保持している有害遺伝子の個体ごとの差異を考慮して、近交弱勢のリスクを最小にする交配計画を策定することも可能である。さらに博物館などに収蔵されている標本に含まれるDNAに関しても、ゲノムレベルの情報を解読可能になってきた。そのため、個体群縮小が始まる前に採集された標本を解析すれば現生個体群との比較解析が可能である。
 本講演では、種の保存法に基づく保護増殖事業対象種のような、集約的な保全策がとられている希少生物に対して、ゲノム情報をどのように活用しうるのか、演者らが行っている研究の概要を紹介するとともに、類似の研究事例もレビューする。


日本生態学会