| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S15-2 (Presentation in Symposium)
淡水魚類は自然・人為的環境変化により生息地の消失や集団の断片化に伴う集団縮小を経験しやすく,約4割の種が絶滅危惧種とされ,多くの種で生息域外保全集団が維持されている.一方で,それらの野生復帰が成功した例は少なく,その成否に影響を与えうる飼育下での遺伝的多様性や遺伝子機能の変化に関する知見は限られている.我々は,3種の絶滅危惧種を対象とした保全ゲノミクス解析を行い,ゲノムワイドな遺伝的多様性と有害変異の蓄積状況(変異負荷)を評価した.対象としたアユモドキとイタセンパラは河川氾濫原に適応した種であり,歴史的に大集団で存在したと想定されるが,近年では小集団化が進んでいる.一方,ネコギギは河川中上流域に生息することから,歴史的に比較的小集団で維持されてきたと考えられる.これらの野生・飼育集団を対象に,特に近年の急激な集団縮小(飼育集団化)の影響を調べた.
各種4〜5集団,計20〜56個体の全ゲノムリシーケンシングデータを解析した結果,すべての飼育集団で近親交配が進行していた.アユモドキでは,飼育集団で野生集団より高いレベルのホモ接合性の変異負荷が認められた.また野生集団では低酸素適応に関連する可能性のある遺伝子群の多様性が維持される傾向にあったが,飼育集団ではその多様性は失われていた.一方,イタセンパラの飼育集団の一つでは,有害変異の選択的除去が働いた可能性が示された.飼育方法の違いが有害変異の選択的除去に影響を与えた可能性がある.また一部のネコギギ野生集団ではゲノム中で連続ホモ接合領域が占める割合が飼育集団並みに高かったが,ホモ接合の有害変異は少なく,長期的に選択的除去が働いてきた結果と推測された.生息域外保全においては飼育方法や交配計画の工夫により有害変異の蓄積の軽減や除去が可能かもしれないが,その程度には限界があり,野生復帰の際には遺伝学的モニタリングが必要であろう.