| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S15-3 (Presentation in Symposium)
保全対象種の絶滅リスクやリスク要因を把握するためには,個体数のモニタリングが不可欠である.しかし,開放水域である海に棲む希少魚では,淡水魚で一般に用いられる除去法や標識再捕法などの適用が困難な場合が多い.近年,親から子へのゲノムの伝達を「標識」「再捕獲」に見立てて,集団から抽出された個体サンプルにおける近親関係の多寡から個体数を推定するClose-Kin Mark-Recapture (CKMR)法が開発された.CKMR法は,親子関係,または親を介して「標識」を共有する半兄弟関係にも適用でき,標識再捕法と異なり同一個体を複数回捕獲する必要がない.本発表では,本手法を海産希少魚アカメに適用した事例を紹介し,保全学的研究におけるその有効性について検討する.
アカメは全長1m以上になる日本固有の海産魚であり,その分布域は宮崎県と高知県沿岸にほぼ限られている.宮崎県では2006年に本種が希少野生動植物種に指定され捕獲等が禁じられたが,その効果は検証されていない.さらに,高知県では2017年に明確な根拠なしに本種がレッドリストから除外されており,本種の個体数把握は喫緊の課題となっている.本研究では,本種が仔稚魚期に汽水域のコアマモ群落に蝟集する習性を利用して,同一地点で当歳魚を2017–2020年の4年間にわたり採集し,計311個体から低侵襲的に遺伝分析用サンプルを得た.半兄弟関係を全兄弟やいとこ関係と区別して正確に検出するための条件を検討した上で,全ゲノムリシーケンス法を用いて多数の一塩基多型情報を取得し,Colony2ソフトウェアにより血縁推定を行った.その結果,各年級群の間で多くの半兄弟関係が見出され,CKMR法によって繁殖集団の個体数を狭い信用区間で推定することができた.さらに,成魚の年生存率や繁殖生態に関する手がかりなども同時に得ることができ,保全学的研究に有用な多くの情報が本手法によって取得可能であることが示された.