| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S15-4  (Presentation in Symposium)

小笠原固有種ムニンノボタンとその近縁種の系統解析とゲノム脆弱性の評価【O】
Phylogeny and genomic vulnerability of the Ogasawara endemic species Melastoma tetramerun and its closely related species.【O】

*小林千浩(京都大学), 小牧義輝(東京大学), 井鷺裕司(京都大学)
*Yukihiro KOBAYASHI(Kyoto Univ.), Yoshiteru KOMAKI(Univ. Tokyo), Yuji ISAGI(Kyoto Univ.)

ノボタン属(ノボタン科)はアジア・オセアニアの熱帯〜亜熱帯に100種ほどが分布し、小笠原諸島には3つの固有分類群(ムニンノボタン・ハハジマノボタン・イオウノボタン)が知られている。これらの分類群はいずれも希少であり、このうちムニンノボタンは環境省の保護増殖事業の対象種とされている。本研究では、これらの小笠原固有3分類群について、近縁種を含めた系統関係を明らかにすることと、ゲノムの脆弱性を指標として各分類群の健全性を評価することを目的として、葉緑体全塩基配列・核ゲノムSNPデータに基づく系統推定・集団ゲノム解析(PSMC・MSMCによる過去の集団動態の推定、ROH・ヘテロ接合度・有害変異の割合の推定)を行った。系統推定では、小笠原固有3分類群はいずれも単系統であり、ムニンノボタン・ハハジマノボタンは姉妹群となった。イオウノボタンは琉球に生育する普通種であるノボタンの内部に位置し、ムニンノボタン・ハハジマノボタンとは異なる起源を持つと推定された。集団ゲノム解析の結果では、小笠原固有3分類群は近縁な普通種と比較していずれも過去の有効集団サイズが減少傾向にあり、遺伝的多様性が低いと推定され、特にハハジマノボタンは他の小笠原固有分類群と比較しても低い遺伝的多様性を示した。有害変異の割合については、ムニンノボタン・ハハジマノボタンでは普通種と比較して高い割合となったが、イオウノボタンでは普通種と変わらない結果となった。以上の結果から、小笠原固有3分類群の遺伝的な健全性は分類群によって異なり、ムニンノボタン・ハハジマノボタンはイオウノボタンと比較してより脆弱であると考えられた。ハハジマノボタンは保護増殖事業の対象種とはなっておらず、集約的な保全策はとられていないが、ムニンノボタン以上に脆弱なゲノムを持つ可能性があることから、保全の必要があると考えられる。


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