| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S16-6  (Presentation in Symposium)

雑種形成による性的放散の理論:交雑由来の個体間変異が導く平衡点間の推移と種分化【B】【O】
A theory of sexual radiation by hybridization: Admixture variation as a driver of shifts between evolutionary equilibria and speciation【B】【O】

*香川幸太郎(国立遺伝学研究所)
*Kotaro KAGAWA(National Institute of Genetics)

急速に種が多様化した分類群の多くでオスの性的装飾が多様化しており、そのような種群では異性間性淘汰が性的装飾の多様化と種分化に貢献したと言われている。この主張の理論的根拠の一つは、異性間性淘汰が導く進化動態には多くの場合、複数の安定平衡点が存在することである。別々の平衡点に達した集団間ではオスの性的装飾とメスの配偶者選好性の表現型が異なるため、交配前隔離が成立する。したがって、異性間性淘汰は多様な性的装飾を持つ種群の安定的な維持に貢献しうる。しかし、複数の異なる平衡点を占める種群が形成される初期過程は明らかでない。なぜなら、祖先種が既に安定平衡点の一つに達していると想定すると、そこから逸脱して新たな平衡点へ向かう進化は起こりにくいはずだからである。つまり、種分化が起きるためには安定平衡点間の推移を可能にする要因が必要となる。本研究では、そのような要因として遺伝的に異なる系統間の交雑に注目する。交雑集団では別系統由来の遺伝子が組み合わさった多様な遺伝子型が生じ、表現型の個体間変異が増大する。これによって祖先種で維持されてきた表現型が崩れると同時に多様な新奇表現系が生み出され、新たな平衡点に向かう進化が誘発されると予想した。この理論の妥当性を確認するため、オスの複数の装飾形質とメスの選好性の進化をシミュレーションする個体ベース・モデルを構築した。このモデルで、まず性選択による進化が複数の安定平衡点を持つことを確認し、次に同種内の遺伝的に分化した系統間の交雑が導く進化をシミュレーションした。その結果、交雑による選好性と性的装飾における個体間変異の増大が性選択の動態を変化させ、祖先種が占めていた平衡点からの逸脱が誘導されることが分かった。これによって新たな平衡点へと推移する進化が促進され、性的装飾と配偶者選好性の多様化による種の多様化(性的放散)が導かれうることが示唆された。


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