| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S19-1 (Presentation in Symposium)
複雑なゲノム構造を持つ高次倍数性と生態や進化の関係を理解する上でゲノム配列は非常に有用な基盤情報であり、染色体セット間を区別できるほどの高い精度が求められる。PacBio社のロングリードシーケンサーによって得られる非常に精度の高いHiFiリードは十分な配列長を現実的なコストで取得できるため、新規ゲノム決定における最有力候補となっている。2023年にはヒトでテロメアからテロメアまでリピート領域を含めた全長をギャップなく繋いだTelomere-to-Telomere (T2T)ゲノムが公開され、モデル生物やゲノムサイズの小さな生物でT2Tレベルのゲノムが報告され始めている。しかし植物では作物や雑草などで複雑な倍数性が知られており新規ゲノム決定が難しいケースが散見される。発表者らは異質4倍体の水田雑草であるタイヌビエEchinocloa phyllopogonの除草剤への多剤抵抗性を獲得した系統のゲノムを新規に決定した。染色体18本のうち16本でテロメアからテロメアまでの染色体全長を、そのうち12本はギャップを含まない完全なT2Tレベルで染色体を決定した。系統的に異なる中国産の既報のタイヌビエ配列と比較するとセントロメアと考えられるリピート配列を中心に完成度が向上しており、精度が大きく改善された。タイヌビエの染色体セット間を比較すると、片方のみでリピート配列の増加と遺伝子の減少が見られ、除草剤抵抗性系統に特異的な構造変化が見られた。本発表では近縁な異質6倍体のイヌビエを含むヒエ属の倍数化と分布拡大および雑草化の歴史について、高精度T2Tゲノムを用いることで明らかとなったことを紹介する。