| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S19-3 (Presentation in Symposium)
染色体 DNA(ゲノム)は遺伝情報を受け継ぐ(種を維持する)上で必須であり、最低 1 つ(真核は 1セット)は必要である。大腸菌など多くのモデルバクテリアは“1 細胞あたり 1 つのゲノムを持つ”1 倍体であるように、ゲノムはひとつあれば十分と言える。一方でバクテリアの中には 1 細胞あたり複数コピーのゲノムを持つ多倍数体も様々な系統で観察され、特に細胞内共生菌に多く見られる特徴である。またバクテリアの細胞内共生由来である葉緑体やミトコンドリアも自身のゲノムを数十〜数万コピー保持していることも知られており、ゲノムの多倍数化はバクテリアからオルガネラまで共通して見られる特徴である。しかし、そもそもどのようなメカニズムの違いによってゲノム倍数性に違いが生じるのか、またなぜ複数コピーのゲノムが必要なのかなど、この進化的背景はほとんど理解されていない。
これまで私たちはシアノバクテリアをモデルに研究を行っており、ざっくりまとめると、このようなゲノム多倍数体は、複数コピーのゲノムを適当に維持しているわけではなく、細胞サイズあたりのゲノム数は厳密に制御されていることがわかってきた。本セミナーではこのゲノム維持機構と、そこからどうすればゲノムが多倍数化するのかというメカニズムを考察する。
また真核生物においてゲノム倍数化(全ゲノム重複)は新規遺伝子の獲得など進化に有利であると言われているが、より多様化している原核生物においてゲノムの多倍数化が進化にとって有利なのか不利なのかはほとんど検証されていない。この問題に関して、多倍数体の複製、遺伝様式に立脚した進化可能性を実験、理論の両面から検証しており、それに関しても紹介したい。