| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S19-4  (Presentation in Symposium)

フナ類にみられる倍数性変化を伴うクローン繁殖の分子基盤とその安定性【O】
Molecular basis and stability of clonal reproduction with ploidy change in Carassius fish【O】

*三品達平(九州大学)
*Tappei MISHINA(Kyushu Univ.)

自然界の真核生物の99%は有性生殖をすると言われている.これほど普遍的な現象にもかかわらず,「有性生殖がなぜ進化し,維持されてきたのか?」という問いは,進化生物学における大きな謎の一つである.この理解が進まない大きな要因の一つは,有性生殖からクローン繁殖が進化するのに必要な分子メカニズムの理解の欠如と言える.一般的に,クローン繁殖をする生物は,組換えを欠くため遺伝学的な手法によってクローン繁殖の原因遺伝子を明らかにすることは困難である.本発表では,「倍数性構造集団」であることを利用してクローン繁殖の分子基盤とその進化過程に迫る最新の知見を紹介したい.
 コイ科フナ属魚類では,有性生殖の2倍体とクローン繁殖の3倍体が遺伝的交流をもつことで,有性・クローン型が多型的に維持されている.まず,こうした稀有な生殖様式の機構と安定性を細胞学的な観察から調べたところ,クローン型では,組換えの喪失、第一極体の排出の抑制,そして父性ゲノムの前核形成不全の表現型が95%以上の高い安定性をもって見出された.次に,日本および大陸から採集した3nフナのゲノム組成を調べ,2nと3n間の遺伝的交流の実態を調べたころ,3nフナのゲノムが2nフナからの組換えを伴う一方向的な遺伝子浸透により置き換わっていくことを見出した.さらに有性生殖と雌性発生の両形質について全ゲノム関連解析を行い,有性と雌性発生の形質をほぼ完全に説明するゲノム領域を探索したところ,組換え,減数分裂の周期制御,核構造制御などに重要な遺伝子を検出した.これらゲノム解析結果から見えてきた雌性発生の分子基盤に基づいて,その進化過程を紹介するとともに,新たに見えてきた有性生殖からクローン繁殖への進化の困難さについても考察する.


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