| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S19-6  (Presentation in Symposium)

シダ植物の異質倍数体化による種分化は親種からのニッチ分化を伴うのか?【O】
Does allopolyploid speciation in ferns involve niche differentiation from the parent species?【O】

*綿野泰行(千葉大学)
*Yasuyuki WATANO(Chiba Univeristy)

 異質倍数体化は,植物の主要な種分化機構の一つであると広く認知されている。しかし新規倍数体個体がいかにして集団として確立して新種形成に至るのか,という生態的過程については良く分かっていない。2倍体種集団の中に新規に4倍体個体が生じる状況では,2倍体親種からの繁殖干渉や各種資源を巡る競争が起きることは想像に難くない。この負の影響を乗り越えて定着が起きる条件の一つとして,親種と異なる新しいニッチを獲得することが必要であるという説(ニッチシフト仮説)が提唱されている。
 本研究では,同形胞子シダ植物の日本産異質4倍体種を対象に,2倍体親種が両方共に日本に現存するという6属にわたる11種類のトリオを対象とすることで,系統・地理・成立年代を限定して,このニッチシフト仮説の検証を試みた。種分布モデル(SDM)を用いて日本を舞台にニッチ類似度(Schoener's D)やニッチ幅(Levins’s B1)を比較する方法と,主成分空間上でニッチ類似度を比較する方法を用いた。
 SDMを用いた手法でのニッチ類似度の平均は,親種間が0.276,親種と倍数体の類似度の高い方が0.616,低い方が0.378であった。個別のカテゴリー分類では,ニッチ拡大が5例,ニッチ中間性が4例,ニッチ縮小が2例であり,親種と倍数体の類似度が親種の平均(0.276)より低くなるニッチ新規性と評価されるものは無かった。主成分空間上でのニッチ比較でも同様であり,大きな親種からのニッチシフトを示す例は無かった。いずれの解析においても親種間のニッチ類似度が低い例が多くみられた。新規ニッチを獲得せずとも,雑種性を生かして親種があまり利用していない中間的ニッチを利用することで定着することが可能になったのではないかと考察できる。


日本生態学会