| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S19-7 (Presentation in Symposium)
被子植物において胚への栄養を貯蔵する胚乳は、子への栄養投資をめぐる父母間の戦場である。一般に植物1個体に実る種子(子)は互いに異父兄弟であり、父母間で子ごとに血縁度が異なるため、子への栄養投資をめぐり父母間の対立がある。父親視点では母親からの栄養を血縁のある一部の子にのみ集中させる方が進化的に有利だが、母親視点では全ての子が同じ血縁であり、それぞれに等しく栄養投資をすることが有利となる。つまり、ある種子の胚乳に着目すると、その父親は栄養投資を増やし、母親は対抗して減らすことが有利である。実際に、胚乳成長の関連遺伝子にはゲノム刷り込みがあり、父由来では成長を促進し、母由来では阻害する傾向にある。そして、裸子植物の一倍体(母1:父0)の保育組織から、被子植物における重複受精の獲得(母1:父1)、80%以上の科で共通する三倍体胚乳(母2:父1)への移行も、この父母間の対立を通して、それぞれが保育組織(胚乳)への遺伝的貢献を増加させるよう進化した結果だとされている。しかし、その一方で、なぜ裸子植物では重複受精が生じないのか、なぜゲノム刷り込みにとどまらず倍数性の進化が生じるのか、なぜ倍数性の軍拡競争が続かず母2:父1の状態に止まっているのかなど、ゲノムコンフリクトに基づく進化モデルには数多くの問題が残されている。そこで、本研究では、胚乳における父母由来のゲノム数の増加条件と軍拡競争の終結条件を明らかにするために、ゲノム数の共進化動態を数理モデルで分析した。その結果、送粉の効率化により父由来のゲノム増加(重複受精)が生じ、遺伝子発現量にコストを仮定すると母由来のゲノム増加(三倍数性の胚乳)が生じることが明らかになった。その一方で、単にコストを仮定するのみでは、容易に、倍数性をめぐる際限ない軍拡競争に陥ってしまうことも示された。