| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S20-5 (Presentation in Symposium)
草原は急速に失われている生態系の1つである。歴史の古い草原には、多くの草原性希少種が維持されており、新しい草原とは異なる植生が成立している。こうした植生は一度失われると、再生するには長い年月がかかり、草原再生の課題となっている。近年、植物群集の種多様性や動態において菌根菌が重要な役割を担っていることが指摘されている。草本の約8割がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生し、宿主植物には共生により栄養塩の獲得、実生の定着率向上など様々な有益な作用がもたらされる。植生と同様に古い草原には、新しい草原とは異なるAM菌群集が成立しているものの、草原再生におけるAM菌群集の動態は明らかにされていない。
本研究は、(株)竹中工務店の技術研究所が行っている草原再生実験において、半自然草原由来の土壌導入が植生やAM菌に及ぼす効果を明らかにし、3年間の草原再生のプロセスを明らかにすることを目的とした。実験区に加え、長期間維持されてきた古い半自然草原、造成跡地などの新しい草原で、植生調査およびAM菌のメタゲノム解析を行った。
古い草原の植物種数およびAM菌のOTU数は新しい草原のものより多く、その群集構造は新しい草原のものと異なった。再生実験区において、土壌を導入しても、植物群集およびAM菌群集ともに古い半自然草原のものとは異なった。土壌導入区の1年目のAM菌は、半自然草原由来および実験区由来のOTUが混在し、その多様性は半自然草原のものと匹敵するものだったが、年数の経過とともに減少した。それは主に実験区由来のOTUが排除されたことによるもので、群集構造は古い草原のものに近づく方向へ遷移していた。草原再生において、古い草原由来の土壌導入がAM菌群集の再生においても有効であることが示された。AM菌は地域特異性が低いと考えられているが、古い半自然草原の土壌に特化した分類群がいると考えられた。