| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S20-6  (Presentation in Symposium)

植物-微生物共生系が持つ遺伝資源価値は何円か? -草原 vs 森林-【B】【O】
The genetic resource value of a plant-microbe symbiosis system: Grassland versus Forest【B】【O】

*田中健太(筑波大学・山岳セ), 肥後茉由佳(帝京科学大学), 鈴木暁久(筑波大学・山岳セ), 冨髙まほろ(筑波大学・山岳セ), 野口幹仁(京都大学), 朝田愛理(神戸大学), 井上太貴(筑波大学・山岳セ, サンリット(株)), 土井結渚(筑波大学・山岳セ), 滝澤一水(筑波大学・山岳セ, (株)環境総合研究所), 嶋崎桂(筑波大学・山岳セ, 伊那食品工業(株)), 寺嶋悠人(筑波大学・山岳セ), 平山楽(神戸大学), 黒川紘子(森林総研), 丑丸敦史(神戸大学), 大沼あゆみ(慶應大学), 東樹宏和(京都大学), 野中健一(帝京科学大学)
*Tanaka KENTA(MSC, Univ. Tsukuba), Mayuka HIGO(Teikyo Univ. of Science), Akihisa SUZUKI(MSC, Univ. Tsukuba), Mahoro TOMITAKA(MSC, Univ. Tsukuba), Mikihito NOGUCHI(Kyoto Univ.), Airi ASADA(Kobe Univ.), Taiki INOUE(MSC, Univ. Tsukuba, Sunlit Seedlings Ltd.), Yuina DOI(MSC, Univ. Tsukuba), Issui TAKIZAWA(MSC, Univ. Tsukuba, Gen. Res. Cent. Env.), Kei SHIMAZAKI(MSC, Univ. Tsukuba, Ina Food Industry Co., Ltd.), Yuto TERASHIMA(MSC, Univ. Tsukuba), Gaku HIRAYAMA(Kobe Univ.), Hiroko KUROKAWA(FFPRI), Atushi USHIMARU(Kobe Univ.), Ayumi ONUMA(Keio University), Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.), Kenichi NONAKA(Teikyo Univ. of Science)

 現在、遺伝資源の消失は地球規模の環境問題の中で最大の警鐘が鳴らされている。これまでに経済価値やその減少速度が評価されてきた多くの生態系サービスと比べて、遺伝資源は種の絶滅に対して最も敏感に消失してしまう。しかし、保護区設置による遺伝資源の増加量が推定されてきた一方で、生態系の劣化・消失による潜在的な遺伝資源価値の減少は評価されていない。遺伝資源の中で、微生物に由来する創薬資源の市場規模が大きい。本研究は植物共生微生物に着目することで世界で初めて、微生物が持つ創薬資源 の潜在的な経済価値を生態系レベルで推定した。また、世界的に特に急速に消失している生態系である草原と、草原から移行して成立する森林を対象とすることで、遺伝資源の消失リスクについて検討した。
 植物に内生・共生する微生物が持つ抗感染症の活性成分を評価対象とし、面積あたりの植物種数×内生微生物種数×活性割合×創薬成功率×市場価値によって遺伝資源価値(円)を算出する式を開発した。長野県の菅平高原・峰の原高原で、300年以上前から継続している草原7地点と、草原からの遷移や植林によって成立した林齢40~90年の森林7 地点を調査地とした。植生調査、出現植物約170種の根・葉から真菌・細菌を検出するDNAメタバーコーディング、単離した真菌・細菌を用いた病原菌近縁6種に対する抗菌試験、創薬成功率と市場価値の文献調査を行った。
 草原・森林ともに3~4億円/ha程度の創薬資源価値 があると推定された。狭い面積では草原の遺伝資源が卓越し、面積を広げると森林の遺伝資源が草原に追いついた。 遺伝資源の消失リスクを、希少植物種に依存している遺伝資源価値をもとに検討した。希少植物種の多い草原は遺伝資源の消失リスクが大きいと考えられ、 世界的に進む草原の森林化や植林によって古くから継続している草原の遺伝資源が失われる可能性がある。


日本生態学会