| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W01-1 (Workshop)
人為的攪乱によって維持される農業景観は希少な生物の代替生息地として機能していることがある。四国や中国地方ではマメ科のカワラケツメイがお茶として栽培されており、それを食草とする絶滅危惧種のツマグロキチョウが栽培地に生息している。カワラケツメイの自生地が河川改修や農地改良によって減少している中で、カワラケツメイの栽培地はツマグロキチョウの存続にとって重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、カワラケツメイの栽培地と自生地におけるツマグロキチョウの個体数を階層モデリング(検出確率を考慮したN混合モデル)によって推定した。その結果、栽培地・自生地ともに季節の進行に伴うツマグロキチョウの個体数の増加がみられ、栽培地がツマグロキチョウの生息地として機能していることがわかった。これは、地域的な文化によって創出された農業景観の構成要素であるお茶の畑が希少種の存続につながった事例と言えるだろう。しかし、高知県におけるカワラケツメイをお茶として利用する文化は高齢化や消費者の嗜好の変化により衰退しつつある。そのため、ツマグロキチョウの保全を議論するうえで、カワラケツメイの自生地の保護や創出に加えて栽培地の持続性が課題となる。