| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W01-2  (Workshop)

長期の草刈り実験から解き明かすミヤマシジミ個体群の応答とそのメカニズム
Responses of Plebejus argyrognomon subpopulations and their mechanisms clarified through long-term mowing experiments

*葉雁華, 出戸秀典, 宮下直(東京大学)
*Yenhua YEH, Hidenori DETO, Tadashi MIYASHITA(Tokyo Univ.)

農地周辺の畦畔や土手の草地は主に草刈りで管理されて維持されているため、そこに生息する生物は草刈り管理によって大きな影響を受けていると考えられる。ミヤマシジミ(Plebejus argyrognomon)は環境省の絶滅危惧ⅠB類に指定されており、土地利用の変遷により、生息地が激減し、絶滅の危機が増大している。ミヤマシジミの個体群を維持するためには、草刈り管理の影響を解明することが急がれる。本種の幼虫は、コマツナギ(Indigofera pseudotinctoria)のみを食草とするスペシャリストであるが、寄生者によるトップダウン効果も重要ではないかと考えられる。本研究では、異なる草刈り管理に対するミヤマシジミとそれに関わる生物・非生物要因の応答を明らかにするとともに、本種の個体数決定のメカニズムを明らかにすることを目的とした。長野県飯島町の農地の土手で、2019年から2022年までの4年間、異なる草刈り強度を施した野外操作実験を行った。以下は主たる結果である。
1)ミヤマシジミ個体群は中強度の草刈り管理の下で最も増加することがわかった。その原因は、食草のコマツナギからのボトムアップ効果と寄生性天敵(ヤドリバエ類とシヘンチュウ類)からのトップダウン効果の組み合わせによると考えられる。
2)中強度の草刈りは、食草のコマツナギだけでなく、在来の草原性植物も増やすことも明らかになり、様々な草原性生物の多様性を支える環境の創出を可能にすることが示唆された。
3)アリの防衛はヤドリバエ類の寄生率の低減に有効であり、また降水日数はシヘンチュウ類の寄生率を増やす効果があることがわかった。また、丈の低い植生下では、両者の寄生率がともに低下することがわかった。
以上の知見をもとに、本講演ではミヤマシジミの保全にとって有効な草地管理を提言する。


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