| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W01-3 (Workshop)
大河川の氾濫原に形成される保水力の高い後背湿地には,分流や沼沢地,三日月湖などの様々な湿地環境が存在する生物多様性の高い景観要素である.国内の氾濫原では,これらの後背湿地と洪水時に供給された肥沃な土壌を利用し,広大な水田がつくられてきた.これらの水田は洪水の影響により強度の湿田であり,水田周辺には河川水を用水とするため農業用水路が張り巡らされてきた.これらの水田開発は時間的に緩やかに進められたことや,農事暦に従い定期的に湛水・撹乱される水田およびその周辺の農業用水路などからなる水田水域が本来の後背湿地と類似した機能を有していたことなどから,後背湿地に生息していた生物の代替生息・生育地として水田が機能したと考えられている.しかしながら,近代以降の大河川では,さらなる農地開発と治水のため,縦断的な連続堤防が整備されてきた.これにより,氾濫原が堤内地と堤外地に分断され,堤内地への氾濫頻度は急減した.併せて1960年代以降の圃場整備事業の進行により,乾田化や区画整理など水田環境が大きく変化したことで水田の生物多様性は低下した.また,連続堤防によって氾濫原は堤外地のわずかなエリアに限定された.こうした氾濫原は「河道内氾濫原」と呼ばれ,従来の氾濫原とは異なるが,そこに創出される湿地群は,多種の生物群集にとって貴重な生息・生育場所となると考えられている.演者らは,濃尾平野の河道内氾濫原の湿地群(河道内湿地)とその周辺水田において,水生動物群集の生息・繁殖状況を調査した.その結果,河道内湿地と水田における群集は大きく異なり,前者では,生活史において恒久的な水域を好む分類群を中心に構成されていた.後者では,一時的な水域を繁殖場所として好む分類群が特徴的だった.河道内氾濫原と水田の維持管理は,これらの異なる湿地タイプの相補性によって,本来の氾濫原に近い生物多様性を保全するのに役立つ可能性がある.