| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W01-4 (Workshop)
山間地の水田景観は本田だけでなく畦畔やため池等の複数の要素から構成される。畦畔法面側の本田脇に主に掘られる承水路(別名:江、テビ、やそよ等)もその1つであり、本田の水位調整や排水、山側から浸みだす冷水を温める等の役割を担っている。山間地には排水性改良工事を受けた圃場整備水田と未整備水田の両方が今もみられ、中干し等を伴う慣行農法だけでなく湿田環境が維持される伝統的農法が営まれる水田もたまにみられる。山間地には乾田・湿田の両方が入り混じっていると言えるが、承水路はそのどちらにも設置される。長期的に湛水され本田と比べれば攪乱が少ない承水路には他の景観構成要素とは異なる植物群集が発達していると予想されるが、その実態はよくわかっていない。本発表では、新潟県十日町市の山間地域8集落で確認された承水路の植物群集構造を本田の群集と比較しながら紹介する。植物群集構造は、承水路あるいは本田に0.5 m x 2.0 m方形枠をそれぞれ3~4枠設置し枠内の維管束植物と車軸藻類の被度を記録することで評価した。調査の結果、承水路には水生植物35種を含む維管束植物148種と車軸藻類2種が確認され、9種の維管束植物は環境省版または新潟県版のレッドリスト掲載種であった。維管束植物、浮遊植物、抽水植物、レッドリスト掲載種、強害雑草種の種数は本田より承水路内で高い傾向にあった。この傾向は慣行農法で維持される圃場整備水田および未整備水田(つまり乾田)だけでなく伝統的農法で維持される圃場未整備の湿田でも同様であった。圃場未整備の湿田の承水路では、乾田の承水路より抽水植物・浮遊植物の種数が豊かで、沈水植物と車軸藻類もみられた。序列化の結果、承水路の群集構造は本田のそれより変異に富むことがわかった。山間地の水田景観において承水路は絶滅危惧種を含む水生植物の生育地として機能し、景観内の種および群集の多様性を高めうる存在であることが示唆された。