| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W10-1 (Workshop)
地上生の菌類の多くは、胞子を風により広域散布するため、海峡による地理的隔離の影響を受けにくく、これまで島嶼生物地理の研究対象とされることが少なかった。我々の研究対象である「地下生菌」は多系統の菌群であり、その多くは有性胞子が類球形の子実体内部に形成され、胞子の自力散布能力を欠いている。一方で、多くの地下生菌はそれぞれに特有の匂いで小動物を誘引し、子実体が摂食されることで胞子分散することが知られている。このことを踏まえると、地下生菌は海を越える広域分散が困難であると推考される。しかし、実際には琉球列島などの大陸島だけでなく、伊豆・小笠原諸島などの海洋島においても、多様な地下生菌が分布している。そこで我々は、地下生菌がいかにして離島、特に海洋島へ分散するかを明らかにするため、島嶼をはじめ日本各地で採集された同種標本のDNA情報に基づく比較解析をおこなった。その結果、大陸島(琉球列島等)において海峡形成による分断の影響が種内で顕著に見られた地下生菌はむしろ少数で、その影響がほぼ見られない地下生菌が多数を占め、更に後者の多くが海洋島である伊豆諸島にも分布を広げていた。一方で、海峡形成による大陸島の分断の影響が顕著に見られた種が海洋島に分布するケースは殆ど無かった。例外的に、担子菌類イグチ科の地下生菌ウスベニタマタケTurmalinea persicina とホシミノタマタケ属パルカイ亜属の一種Octaviania subg. Parcaea sp. が伊豆諸島神津島で採集され、rDNA ITS領域およびMIG-Seq に基づく系統解析をおこなったところ、これらは地理的に近い伊豆半島-関東南部の遺伝的集団ではなく、中国南東部-北琉球-九州に分布する集団に由来することが示唆された。本講演では、これらの地下生菌が海洋島へ分散・移入したプロセスについて、いくつかのパターンを挙げ考察する。