| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W10-2  (Workshop)

海鳥の巣はタネの空港?~付着散布は巣から始まる~【O】
Seabird nests are airports for seeds?  Adhesive seed dispersal starts from nesting material.【O】

*水越かのん(筑波大学), 上條隆志(筑波大学), 川上和人(森林総合研究所)
*Kanon MIZUKOSHI(Tsukuba Univ.), Takashi KAMIJO(Tsukuba Univ.), Kazuto KAWAKAMI(FFPRI)

誕生以来一度も陸続きとなったことのない海洋島の生物は一体どこからやって来たのか?海洋島生物相の起源は、島嶼生態学における大きな謎の一つである。特に自力での移動手段を持たない植物に着目してみると、植物が海洋島に辿り着くための手段は海流・風そして鳥類による種子の散布に限られる。
 特に飛行能力に優れ日常的に長距離を移動する海鳥が、付着散布によって海洋島の植物相成立に寄与しているという可能性がCarquist(1974)はじめ度々指摘されてきた。実際に、Aoyama et al.(2012)によって小笠原諸島で営巣している海鳥の羽毛に外来種を含む植物の種子が付着していたことが報告され、海鳥が有力な種子散布者として機能し得ることが示唆されている。
では洋上を主な活動場所とする海鳥に、どこでどのように種子が付着するのだろうか?海鳥による付着型種子散布プロセスの解明は、海鳥に運ばれる植物の種構成に影響する重要な課題である。海鳥の羽毛に種子が付着する機会は着陸時、歩行中、そして巣材上での抱卵時が挙げられる。海鳥の巣材は他の鳥類と同じく植物で構成されるため、巣材と共に種子が持ち込まれると考えられる。さらに巣では歩行時や着陸時に比べ能動的かつ長時間の接触が発生する。棘や粘着物質を持つ種子が巣材中に含まれていれば、それらが巣材を介して海鳥に付着する可能性がある。講演者らは、海鳥による付着型種子散布が発生する起点として海鳥の巣に着目し、2011年から2019年の間に小笠原諸島で採集した海鳥巣材90個を分析し巣内に植物の種子が含まれるか調べた。結果、全サンプルのうち88%の巣に植物の種子が含まれており、海鳥の巣材から出現した種子の総種数は22種に及んだ。講演では海鳥の巣に含まれていた種子の特徴を紹介しながら、海鳥の巣が海鳥による付着型種子散布の発生プロセスにおいて重要な役割を演じている可能性を論じる。


日本生態学会