| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W10-4 (Workshop)
植物が新たな環境に侵入した際に、本来の散布媒体を失い、新たな散布媒体に適応した果実形態の獲得とともに種分化したと考えられる例は、広い分類群で観察されているが、このプロセスには不明な部分が多い。海岸性低木のクサトベラには、海流散布能力を持つ果実(コルク型)と持たない果実(果肉型)の個体間変異が存在する。コルク型は砂浜で、果肉型は海崖で優占する。本種のような、種子散布形質に個体間変異が存在し、その変異によって環境選好性が変化する植物は、散布形質進化に起因する種分化の初期プロセスの理解によい材料である。本研究では、果実二型の種子散布能力の違いが遺伝子流動に与える影響を評価した。
まず、本種の二型について海流と鳥による種子散布能力の違いを評価した。果実の海水浮遊実験を行った結果、長期間浮遊し続けたコルク型は、実験開始後直ちに沈んだ果肉型よりも優れた海流散布能力を持つことが示された。鳥散布能力に関わる果実形質を計測した結果、果肉型はコルク型よりも果肉糖度が高く、未消化部分の果実サイズが小さいなど、鳥散布に有利な形質を持っていた。糞分析やインターバルカメラによる観察でも、鳥類はコルク型よりも果肉型を選択する傾向があることが示された。次に、本種の二型について、南西諸島と小笠原諸島の6島17集団95個体を対象にRAD-seq法から検出された約4000座のSNPを用いて集団遺伝学的解析を行った。その結果、二型間で遺伝的分化は見られず、異なる島間の砂浜集団は異なる島間の海崖集団よりも島間のFST値が低かった。したがって、砂浜集団で優占するコルク型果実が海流散布を行うことで島間の遺伝的交流を担っていることが示された。また、異なる島間の海崖集団では弱い遺伝的隔離が見られ、そこで優占する果実型は鳥によって分散範囲が島内に制限されやすくなると考えられた。