| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W11-7  (Workshop)

樹木の結実フェノロジーや結実量の年変動が動物媒介の種子散布に及ぼす影響の検証【O】
Effects of annual fluctuation of fruiting phenology and fruit production on endozoochory seed dispersal system【O】

*栃木香帆子(東京農工大学, 東京大学)
*Kahoko TOCHIGI(TUAT, The University of Tokyo)

固着性の樹木にとって、風や水、動物などによる種子の移動(種子散布)は唯一の移動の機会である。動物媒介の種子散布様式では、種子の散布量や散布先の環境は、動物の行動に大きく影響される。近年の気候変動などの環境変化によって、動物の行動にも変化が生じることが指摘されている。動物が環境変化に対してどのように応答し、どのように種子が散布されるかを把握することは、将来の環境が樹木の分布移動に及ぼす影響を予測する上で重要である。
 近年、気温変化により相互関係をもつ生物間でフェノロジーのズレが生じてきている。種子散布においても、樹木のフェノロジーの変化が樹木の結実期と動物による果実利用のタイミングの不一致を引き起こしている可能性がある。このようなフェノロジカルミスマッチ仮説は、フェノロジーの変化を長期にわたって同地域で継続的に記録する必要があるため、その仮説検証は十分に行われていない。一方で、緯度や標高の異なる様々な地域で、複数のフェノロジーパターンと動物による利用データを得られれば、少ない時系列データでも仮説検証できる可能性がある。
 本発表では、動物が果実を食べ種子を排泄する被食散布を対象とし、樹木―哺乳類の種子散布ネットワークに関する研究計画を紹介する。動物の行動を変化させる要因としては、樹木の結実フェノロジーの変化と結実量の年変動に焦点を当てる。JaLTERの研究サイトの一つで種子捕食について予備調査を実施したところ、ネズミの秋の主食であるドングリの結実が他の果実の散布成功を左右する可能性が明らかになった。今後は、多様な研究サイトが充実し、様々な樹種の生態情報が蓄積されているJaLTERのデータを活用し、フェノロジカルミスマッチ仮説の検証や、他の食物資源の変動による影響の評価に取り組みたいと考えている。


日本生態学会