| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W13-3  (Workshop)

樹木のモジュール構造とその成因に関する考察【O】
The modular structure in trees and some possible factors affecting its formation【O】

*隅田明洋(京都府立大学)
*Akihiro SUMIDA(Kyoto Prefectural Univ.)

分枝しながら成長する樹木では,一本の茎から複数の当年生シュートが生まれる。このような分枝を繰り返すと当年生シュート数が指数関数的に増加するように思える。落葉広葉樹コナラでは,実際には指数関数的分枝構造を持ちながらも総シュート数が定常状態を保つような枝葉のひとかたまり(モジュールorクラスター)が個体の樹冠を構成する。このモジュール的構造は,当年生シュートの発生と同時に古いシュートが枯死脱落を続けることで維持される。円錐型の樹冠をもつ針葉樹では,頂芽優勢に関わる植物ホルモンとして知られるオーキシン等の作用により,同一個体のなかで鉛直方向に伸長する主軸(幹)と水平的に伸長する側枝との違いが明瞭である。群落内で生育する針葉樹の個々の側枝をモジュールとみなすと,樹高成長とともに樹冠上部で葉を生産しながら伸長するモジュール(側枝)と,それらのせいで暗くなった樹冠下部で,次第に葉を失って枯れるモジュール(側枝)とのバランスによって,個体全体の葉量が時間変化する。すなわち,モジュールの発生・拡大と縮小・枯死のバランスが個体の樹冠を維持している。その一方,林縁に生育する針葉樹個体内では,光がよく当たっている側の枝はよく発達するが,林内側に伸びる枝は枯死してしまう。この現象には,枝の自律性(個々の枝内の光合成生産と呼吸消費の収支だけで枝の成長や枯死が決まること)だけでなく,相関抑制(明るい側の枝の存在に応じて暗い側の枝の成長が抑制されること)が関与していると考えられている。相関抑制は,師部輸送等を介した炭水化物やNなどの栄養分をめぐる競争が同一個体内の枝同士の間で起こる結果生じることが示唆されている。樹木の場合モジュールとみなせるユニットは種によって様々であろうが,状況に応じて拡大したり縮小・枯死する自律的性質をもつモジュールが樹冠を構成することで個体が維持される,と考えることができよう。


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