| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W13-4  (Workshop)

個体・巣・多巣性コロニー:単為生殖アリの社会における多階層モジュール性【O】
Individuals, nests and polydomous colonies: multilevel modularity in parthenogenetic ant societies【O】

*井戸川直人(都立大・理), 永野惇(龍谷大・農, 慶應義塾大学), 土畑重人(東京大学)
*Naoto IDOGAWA(TMU), Atsushi J NAGANO(Ryukoku Univ., Keio Univ.), Shigeto DOBATA(University of Tokyo)

 昆虫は明確な個体性をもつユニタリー生物である。しかし「超個体」とも形容される社会性昆虫のコロニーにはモジュラー生物的な性質も見出すことができる。クローナル植物のようなモジュラー生物と社会性昆虫とのアナロジーがかねてから唱えられており、ユニタリー生物の枠組にはない視座を提供している。その一例として本発表では、単為生殖性のキイロヒメアリの社会構造について紹介する。
 野外での調査と遺伝子解析の結果、キイロヒメアリの巣には複数の女王が存在し、産雌性単為生殖により次世代の女王と不妊の働きアリが生まれることが明らかになった。また女王が翅を欠いていることから、本種は巣を構成する個体の一部が近傍へと移動して、新しい巣を作るという植物の栄養繁殖にも似た巣レベルの繁殖システムをもつと考えられた。さらに、RAD-seq法を用いた集団遺伝解析により、本種の生息地における巣間の遺伝的分化はきわめて小さいことが分かった。加えて行動観察からは、異なる巣から取り出した働きアリ同士が敵対性を示さないというパターンもみられた。
 一連の結果から、単為生殖で生まれた個体がユニットとなって巣が複製され、遺伝的な分化や敵対性のない多巣性コロニーが形成されるという多階層の社会構造が示された。なお、多巣性コロニーの巣間では新女王の生産個体数に大きな偏りがみられ、クローナル植物において議論されているようなラメット間の分業や生理的統合といったコンセプトとの類似性が示唆された。また、キイロヒメアリをはじめとした単為生殖性アリの分散戦略を理解する上でも、クローナル植物における「ファランクス型」や「ゲリラ型」といった類型が当てはまる可能性がある。


日本生態学会