| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W13-5  (Workshop)

植物における近親者間競争:ササタケ類の一斉開花枯死の進化を例に【O】
Kin-competition in plants: perspective of the evolution of mass flowering in bamboos【O】

*立木佑弥(都立大・理)
*Yuuya TACHIKI(TMU)

自ら移動することのない植物は、発芽する所在地とその周囲の生物的非生物的環境を選ぶことができない。肥大成長する過程で周囲の個体と干渉し、光や資源をめぐる競争が激しくなるだろう。種子散布は重力による作用を受けるため、周囲に生育する競争相手が血縁者である可能性は十分に考えられる。モジュラー生物であるクローナル植物ではこの効果はより顕著であろう。地下茎や匍匐枝により周囲に形成される遺伝的に同質な植物体(ラメット)は親株と競争することで、血縁者間どころか、自分自身の適応度を下げることが考えられる。植物の空間分布により引き起こされる血縁者間競争は生活史戦略の様々な場面で影響を与えうる。そこで本発表では、ササタケ類の一斉開花枯死に着目し、周囲の血縁個体との競争が開花周期に影響を与えるという研究事例を報告する。ササタケ類は発芽後、数年から数十年のクローン成長の後、一斉に開花結実し、その後枯死する長寿命一回繁殖型のクローナル植物である。発芽から開花までの期間は種によって異なり、熱帯から温帯へと分布を北上するに従って開花周期が長くなることが知られている。興味深いことにこれに相関する特徴として、熱帯と温帯のササタケでは地下茎の構造が異なることが知られている。この構造の違いクローン成長の際に、娘ラメットを出芽させる距離に違いが生じる。開花周期の短い熱帯では地下茎は短く個体は叢生するのに対し、開花周期の長い温帯では地下茎を水平に展開し空間的にラメットが散在する。本発表では、空間明示的数理モデルを用いた進化シミュレーションにより、地下茎の長さがクローン成長時の血縁者間競争の程度を調整し、それにより開花周期の進化が調整され、野外で見られる地理的傾向が創出されうることを議論する。また、時間があれば血縁者間競争を緩和するための血縁認識についても議論したい。


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