| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W14-4  (Workshop)

自然史研究の裾野はどのように広げることができるか?【O】
New methodologies for capacity building on natural history research【O】

*三橋弘宗(兵庫県博)
*Hiromune MITSUHASHI(Univ. Hyogo)

生態学研究では、野外において生物名を検索・同定する作業や過去の自然史研究を参照することになる。しかし、職業研究者だけでなく、市民科学者、調査会社の実務者といった分類学や地域の生物相の記載といった自然史研究の基盤を支える人材は、分野によっては担い手不足となり、知見の継承や更新が難しくなっている。また、最近の公共事業でも、過去の知見に依存した評価や特定分類群の簡便な調査の場合も多く、幅広い分類群を対象とした新規モニタリングは充分に行われていないため、民間需要も減少している。基盤部分の脆弱化が見えにくい形で進行している。この状況改善には、いくつかの方法論が考えられる。1つ目は、あらゆるセクターが気軽に参加できる「分類学講座」を開催すること。最新の分類学の座学だけでなく、野外採集や解剖、標本作成、DIYできる分析法や生物多様性情報へのアクセス、保全技法なども含めた複合的な構成が想定される。特に、分類群に特化した既存の研究会と中間支援団体との協働による公開講座が有効だと考え、今年度JBONにて共同開催した事例を紹介する。2つ目は、種の検索を簡易化するツールの充実。参照できる標本が各地の博物館等で手軽に閲覧できることや、分布情報の蓄積と公開、WEB上での検索ツールや高精細画像や3D画像の公開、AIを活用した種判別のツール整備が挙げられる。すでに実用レベルにあるものを紹介する。3つ目は社会需要の再構築を挙げる。生物リストをつくることで、介入への許認可や経済的メリット、実施権の担保となる法に基づく基本的事項への包含を想定している。これは、「自然共生サイト」の登録、「小さな自然再生」によるエリアの実効支配、産学共同体による「漁業権」の獲得や「外来生物対策監理」などが考えられる。また、標本づくりやデザイン、学校教育を通じた多様な入り口を構成することも含めて、その包括的な展望を提示し、自然史研究の裾野を強化するビジョンについて議論したい。


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