| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W16-2 (Workshop)
小笠原諸島は大陸と一度も繋がったことのない海洋島で、固有種率が高く、1つの祖先種から複数種が環境に適応して急速に分化した適応放散現象が多く見られる。小笠原諸島のムラサキシキブ属とタブノキ属は適応放散的種分化を遂げたと考えられる分類群である。本研究では、これらの分類群を対象にddRAD-Seqを用いてゲノムワイドSNPを取得し、種分化のパターンと動態を解析した。ムラサキシキブ属は、小笠原諸島全体に分布するオオバシマムラサキ、父島列島にのみ分布するウラジロコムラサキ、シマムラサキの3種が分類上確認されているが、母島列島のオオバシマムラサキは種内で異なる環境に適応した複数のエコタイプ(無毛、高木、矮性、中間)に分化している。ゲノムワイドSNPを用いた動態解析の結果、世代時間を5年とすると、17万年前にオオバシマムラサキの高木エコタイプが分化し、他の種・エコタイプは7万年前にそれぞれの列島内で一斉に分化したことが明らかとなった。タブノキ属は、父島列島にムニンイヌグス、コブガシ、テリハコブガシの3種が、母島列島にはムニンイヌグスとコブガシの2種が分類上確認されているが、ムニンイヌグスは開花期の異なる2つのエコタイプ(春咲、秋咲)に、コブガシは父島と母島で葉裏の毛の形態が異なる2つのエコタイプ(父:絨毛、母:直毛)に分化している。集団動態解析の結果、世代時間を10年とすると、15万年前に祖先種からムニンイヌグス春咲、ムニンイヌグス秋咲、コブガシ+テリハコブガシの祖先種の3つに分化し、6万年前に父島のコブガシ絨毛が母島に移住しコブガシ直毛が分化、その後母島のコブガシ直毛が父島に移住しテリハコブガシに分化したことが明らかとなった。ムラサキシキブ属は同じ列島内で適応放散的種分化をしたのに対し、タブノキ属は列島間での移住による異所的種分化の寄与が大きいことが示唆された。