| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W16-3 (Workshop)
世界各地の海洋島で共通して見られる植物相の特徴の1つに、雌雄異株植物の割合が大陸と比べて高いことが挙げられる。その背景のひとつには、島嶼内での他殖を促す進化的圧力により、両全性等の性表現から雌雄異株への進化が生じたことが関係していると考えられている。日本の小笠原諸島でもこの”アイランド・シンドローム”が当てはまり、雌雄異株植物の割合が本土と比べ高い。中でもオオバシマムラサキを含む小笠原諸島に固有のムラサキシキブ属(シソ科)3種は、本属約140種の中で唯一の雌雄異株であることから、両全性の祖先種が島に移入後に雌雄異株化したと推測される。従って本種群は両全性から雌雄異株への進化の遺伝的背景を調べるのに適した分類群である。本研究ではオオバシマムラサキを対象として、両全性から雌雄異株への進化過程でどのような性決定機構を新たに獲得したのかを全ゲノム解析から明らかにすることを目的とした。遺伝的に雌雄が決まる生物の場合、長い2つのハプロタイプ間で組換えが抑制された領域(性決定領域)を持つ場合が多い。従って、性決定領域を特定するためには連続性の高い参照ゲノムが必要になる。そこで最初にロングリードシーケンスを行い、非モデル植物である本種の参照ゲノム配列を雌雄別に新規構築した。次にPool-seq法により全ゲノム配列を取得し、対立遺伝子頻度とリード深度を手掛かりにして雌雄間で遺伝的分化度が高い領域を探索したところ、約800kbpにわたる性決定領域を特定できた。この性決定領域は近傍領域も含め近縁種ゲノムとの相同性が高いことが分かった。さらに遺伝子予測から性決定領域に含まれる性決定候補遺伝子の探索を行ったところ、表現型変異との関連が疑われる花粉稔性に関わる遺伝子が見つかった。以上の結果から、本種群は祖先的に保存性の高いゲノム領域中の既存遺伝子が新たに性決定の役割を獲得したことで雌雄異株化が起こった可能性が示唆された。