| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W17-2  (Workshop)

ボタンウキクサは本当に外来種?文献および標本記録に基づく再検討【O】
Is Water Lettuce really an alien species in Japan? A review based on literature and specimen records【O】

*山ノ内崇志(福島大学)
*Takashi YAMANOUCHI(Fukushima Univ.)

ボタンウキクサPistia stratiotes L.は、汎熱帯的に分布するサトイモ科の浮遊植物である。本種は、リンネが18世紀に記載した当時からアメリカ、アフリカ、アジアの熱帯域での分布が知られていたが、多くの研究者の間では紀元前からの記録があるアフリカが原産地だと信じられてきた。しかしEvans (2003)は、ボタンウキクサを専食する植食者の分布や化石記録、古い文献記録から、アメリカ、アフリカ、アジアの熱帯域がそれぞれ原産地である可能性を指摘した。また、Madeira et al. (2022)は葉緑体とミトコンドリアのDNA配列を用いた系統地理学的な研究を行い、世界に最低7つの異なるハプロタイプがあり、そのうちの3つは種間に相当するほど異なると主張した。世界のボタンウキクサの分布域に対する認識が変わりつつある。
日本でもボタンウキクサはアフリカ原産の外来種と認識されており、特に1990年代以降の九州以北における侵略的なふるまいから特定外来生物に指定されている。しかし、これまでに何人かの研究者が南西諸島に古くから分布記録があることを指摘しており、特に沖(2009)は1850年代まで遡って詳しく議論している。東アジア南部を含め、世界各地に地域固有のクレードの存在が示唆された現在、これらが自然分布である可能性は安易に棄却できなくなった。しかし、ボタンウキクサが外来種と判断された経緯や根拠、認識の変遷に関する議論はなく、その解明は保全生物学上の扱いを確かなものにするために重要である。はたして、ボタンウキクサは現在の科学的知見から外来種と断定できるのだろうか?
生物の分布域は、様々な要因によって、幅広い時空間スケールにおいて変遷する。一方で、「人類の知識体系の中での分布域」も、知識の更新や途絶によって変遷する。本講演では、特に後者に着目した議論を紹介したい。


日本生態学会