| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W17-3  (Workshop)

ここまで分かった日本産マムシグサ節における適応放散的な多様化【O】
Adaptive radiation of Japanese Arisaema sect. Pistillata【O】

*柿嶋聡(昭和大学)
*Satoshi KAKISHIMA(Showa Univ.)

日本列島に知られるサトイモ科14属約80種のうち、テンナンショウ属は53種が知られる最も大きなグループである。そのうち48種を占めるマムシグサ節は、44種が日本固有種であり、日本列島で多様化したと考えられている。海洋島などで見られる適応放散と同様、マムシグサ節は、遺伝的に近い多数の種が含まれており、これまでの分子系統解析では十分な解像度が得られていなかった。また、マムシグサ節植物の形態は、集団間の地理的変異、集団内の個体変異の両方が大きく、しばしば同定が困難である。そのため、過去には多くの種を1種にまとめる見解が提唱されるなど、分類は混乱が続いてきたものの、近年は、特徴的な形態を持つものは種として認識する見解が一般的となっている。また、近年の複数の研究から、同所的に生育する種間の生殖隔離機構として、送粉者相の違いが重要であることが明らかとなってきた。そこで、ゲノムワイドSNPデータに基づく分子系統解析を行い、マムシグサ節内の系統関係を明らかにすることで、分類学的な混乱の解決および適応放散的な多様化が生じた要因の解明を目指している。本研究で得られた分子系統解析の結果、先行研究から推定されていたグループの単系統性が概ね支持されるとともに、新たに広義のマムシグサ群内に6つのクレードが認識された。また、これまで認識されていた種が多系統となるケースが多く見つかったため、分類学的な再検討を進めている。さらに、各クレード内で異なる送粉者タイプの種が見られた一方で、異なるクレードに似たような送粉者タイプの種が見られた。そのため、それぞれのグループで平行的に送粉者相の転換が生じていると推定され、日本産マムシグサ節は送粉者に対して適応放散している可能性が示唆された。


日本生態学会