| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W19-3 (Workshop)
マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、公衆衛生のみならず、自然保護医学においても新たな問題として懸念されている。九州と韓国の間に位置する対馬の絶滅危惧種ツシマヤマネコ(Prionailurus bengalensis euptilurus)は、2022年にSFTSに感染した個体が確認された。希少種の保全にはマダニ相の基礎情報が必要である。ここでは、対馬におけるマダニ相を調査し、ツシマジカ(以下シカ、Cervus nippon pulchellus)の生息数と比較した。対馬のシカの個体数はここ数十年で急速に増加し、約48,800頭、密度69頭/km2に達すると推定されている。2022年5月に対馬の5つの採集地点で旗ずり法を用いた。その結果、Haemaphysalis longicornis、H. formosensis、Amblyomma testudinariumの3種131頭を採集し、そのうちH. longicornisが優占種であった。H. longicornisの個体数は、5つのシカ痕跡に基づく相対的なシカ密度を示すDeer Impact Score(DISco)が増加するにつれて増加した。この調査から、シカの生息数がH. longicornisの生息数を決定する重要な要因である可能性が示された。注目すべきは、H. longicornisがSFTSのベクターとして機能していることである。マダニと野生動物の関係は、ベクターコントロール、リスク予測、希少種の保全の観点から、不可欠な情報になると期待される。