| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W20-2  (Workshop)

Raspberry piを用いた自作ビデオカメラによる送粉者観察【O】
Pollinator observation using DIY video cameras based on Raspberry Pi【O】

*武田和也(東京大学)
*Kazuya TAKEDA(The University of Tokyo)

生態学における野外観察の意義については、もはや生態学会の場で言うまでもないだろう。生物の野外における行動や生態をつぶさに観察することで、対象生物が自然界でどのような環境にどのようにして生きているかを知ることができる。超並列シーケンサー等の技術革新によってゲノム科学が隆盛する現代であっても、むしろ、分子生物学をはじめとする多様な手法をもって解くべき謎を自然から発掘するという点で、その必要性は増したとさえ言えるだろう。しかしながら、野外観察には膨大な手間がかかる。例えば、動物媒花と送粉者との相互作用は植物の繁殖生態や共存を決定する重要な過程であるが、その観察には限られた開花期間に生息地を訪れ、まとまった期間、花の前で待機する必要があるため、多くの時間や人員を必要とする。そのため、大規模なプロジェクトでなければ日本の動物媒植物の多様性を概観することも、同種内の多集団の観察から訪花者の地理的パターンを調べることも困難であるし、離島や高山、林冠など観察が困難な地点においては、未だに多くの植物の送粉生態が謎に包まれている。そこで、カメラである。哺乳類学などの生態学のいくつかの領域では、すでにカメラトラップによる自動撮影が中心的な観察手法となりつつある。また、近年では安価で小型なコンピュータ等が簡単に手に入るため、市販のカメラに加えて自作の撮影装置を組むことで、それぞれの研究の要件にあった強力な相棒を作り出せるかもしれない。本発表では、一例として演者らが小笠原諸島の植物の送粉者解明のために開発・実装した動画撮影装置を紹介する。低電力なRaspberry Pi zeroを用いた安価な動画撮影装置であり、レンズの交換やモジュールの負荷によって、小笠原諸島の離島で送粉者観察を行う上での様々な課題を解決してきた。野外からのデータ収集における自作装置の活用事例として参考になれば幸いである。


日本生態学会