| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J03-01 (Oral presentation)
マルハナバチの採餌では、報酬が多い花を選ぶ精度は低いが花間の移動速度が早い「せっかちな」戦術をとる個体と、速度は遅いが精度は高い「慎重な」戦術をとる個体という2つのタイプが生じることがある。これは「速度と精度のトレードオフ」の一例とされている。しかし、マルハナバチの採餌は、いつでも速度と精度のトレードオフに制約されているのだろうか。というのも、マルハナバチは高い学習能力をもち、報酬が多い花の特徴をおぼえてくり返し訪れる。よって、同じ花から採餌する機会が増えるほど、花の特徴と報酬を結びつける学習が強化されるはずだ。こうした状況では、学習によってトレードオフを克服した個体が「せっかちな」戦術も「慎重な」戦術も採用せず、代わりに報酬のある花を「すばやく精確に」選ぶ場合もあるのではないだろうか。この予測を確かめるため、演者らは、クロマルハナバチと人工花を用いて、学習の蓄積にともなう個体の採餌戦術の変化を調べる室内実験を行った。実験では、報酬花と無報酬花を色の違いで識別する課題を用意し、各ハチ個体に高難易度、低難易度いずれかの課題を提示した。そして、花色と報酬の連合学習が成立するまで、採餌をくり返し行わせた。実験後、ビデオ撮影した動画を解析し、学習が成立する前と後における採餌速度と精度(正答率)を個体ごとに測った。また、学習能力の指標として、学習成立までの訪花数を記録した。実験はまだ進行中だが、どの個体も実験終了時には8割以上まで正答率を高め、同時に採餌速度が高い個体もしばしば観察されている。 発表では、データ解析の結果に基づき、速度と精度のトレードオフは予測通り学習によって克服されるのか、そして、学習成立前に「せっかちな」戦術をとるか「慎重な」戦術をとるかは、個体の学習能力とどのように関係するのかについて考察する。