| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) J03-03 (Oral presentation)
生涯繁殖することなくその一生を終える不妊カーストの存在は、社会性昆虫を定義づける特徴である。しかし、一部の種では不妊カーストに分化した個体であっても繁殖する能力は失われておらず、条件依存的に繁殖が可能である。なぜ不妊カーストでありながら、繁殖能力が完全に失われないのだろうか。本研究では、実験室内でのみその存在が確認されてきたヤマトシロアリのワーカー由来のオス生殖虫が、野外環境下において稀に繁殖に参加していることを報告する。まず、702巣の野外コロニーの生殖虫を調査し、その内1つのコロニーからワーカー由来のオス生殖虫を発見した。マイクロサテライトマーカーによる親子判定の結果、実際にワーカー由来オス生殖虫の子が育っていることが確認された。また、ワーカー由来の生殖虫が発見されたコロニーには、同性の繁殖カーストに属する個体が全く存在しておらず、それがワーカー由来の生殖虫が繁殖機会を得た原因と考えられた。そこで、繁殖カーストに属する個体の有無を野外コロニーで調査した結果、王と女王以外にはワーカーしか存在しないコロニーが全体の10%以上を占めることが判った。ワーカー由来の生殖虫に繁殖機会が巡ってくるのは、このようなコロニーの生殖虫が死亡した場合であることが示唆された。本研究は、本種のワーカー由来の生殖虫が、限定的ではあるものの機能的であることを示す。