| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) J03-05  (Oral presentation)

インフルエンサーは昆虫にも存在するか?:群れの表現型構成に対する同調行動の帰結
Do influencers exist within insect groups? –The consequences of conformity behavior for phenotypic composition in the groups–

*浜道凱也(千葉大・院・融), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Kaiya HAMAMICHI(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

多くの動物は他個体から影響を受けて意思決定を行なう。例えば、ある魚類の群れにおける採餌行動は、個体間の行動パターンの同調によって調整される。同調は、各個体の採餌効率に影響し、行動パターンのみならず、生理的環境も群れ全体で収束させる。そのため、所属する群れにどのような表現型をもつ個体が含まれるか、ひいてはどのような表現型構成であるかは個体の最終的な表現型の決定に大きく影響する。しかし、ある群れの表現型構成が構成員の表現型をどこへ収束させるかは明らかになっていない。そこで本研究は、活動性の同調が知られているショウジョウバエ属昆虫を用いて、群れの表現型構成と構成員の表現型の収束値との関係性を明らかにした。移動速度が異なる20の系統から2系統ずつ混合した雌成虫24個体の群れを複数作成し、行動観察を行なったところ、多くの組み合わせで構成員の移動速度が互いの平均値、つまり相互に同調が起きた場合の期待値に収束した。一方で、興味深いことに、特定の系統が含まれる一部の組み合わせでは、構成員の移動速度が相互同調による期待値から逸脱した値に収束した。そこで、フェノムワイドな解析により、これらの系統の行動特性を調べたところ、集合性が高いことが明らかになった。集合性が高い系統は他個体が集合しているところでのみ止まるため、このことが構成員の移動速度の相互同調による期待値からの逸脱を生み出したと考えられる。本研究では、ある特定の系統が群れ全体に対して不均衡な影響力をもつ証拠を示した。重要なことは、不均衡な影響力をもつ形質に遺伝基盤が存在することであり、このことは、集団内の遺伝子型構成と表現型構成との間にギャップをもたらす要因となるかもしれない。すなわち、このような遺伝子型をもつ個体は、単なる群れの一員にとどまらず、集団全体の動態を左右するインフルエンサーとして機能している可能性がある。


日本生態学会