| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-142  (Poster presentation)

ダム下流への土砂還元による底生動物群集の経年的変化
Temporal responses of the macroinvertebrate community structure to sediment replenishment downstream of a dam

*山田太平(水産大学校), 牧野瞳(大船渡市), 朝日田卓(北里大海洋)
*Taihei YAMADA(National Fisheries Univ.), Hitomi MAKINO(Ofunato City), Takashi ASAHIDA(Kitasato Univ.)

 ダムによる河床材料の粗粒化は、河川生物の群集構造を著しく改変する。粗粒化に対する環境改善策の一つとして、ダム堆積物を浚渫し、河川に置き土する土砂還元が挙げられる。このような環境改善策に対する生物群集の応答は時間的に変化するため、土砂還元が生物群集に及ぼす影響についての経年的な評価が重要である。
 本研究では、2006年に竣工した岩手県盛川水系の鷹生ダムを対象として土砂還元の効果を評価した。鷹生ダムでは、2009年から岩手県による土砂還元が実施されている。土砂還元地点の下流(インパクト)、ダム下流かつ土砂還元地点の上流(コントロール)、ダム上流および支流(リファレンス)の計4地点を調査地点とした。2010年から2015年にかけて、各地点において河床堆積物量を月一回評価した。また、2009年から2015年の7、8、9、11月に、各地点において底生動物を採集した。そして、一般化加法モデルを用いて、地点間の底生動物群集の非類似度の時間的変化について解析した。
 土砂還元によって堆積物量が増加し、堆積物動態がリファレンスに近づくことが確認された。また、インパクトとリファレンス間の底生動物群集の非類似度は時間の経過とともに低下したが、コントロールとリファレンス間の非類似度では同様の傾向は見られなかった。これらの結果から、土砂還元はダム下流域の堆積物動態を改善させることにより、底生動物群集を経年的に回復させることが示唆された。底生動物群集の回復に時間を要したことを考慮すると、土砂還元の効果を評価する際には、中長期的なモニタリングが重要であると考えられる。


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