| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-143  (Poster presentation)

生活史行列の弾性度分析に基づいて現行の化学物質の生態リスク評価手法を検証する
Evaluating the population-level relevance of the current ecological risk assessment of chemicals based on elasticity analysis of life history matrices

*都築洋一(東京大学), 横溝裕行(国立環境研究所)
*Yoichi TSUZUKI(Univ. of Tokyo), Hiroyuki YOKOMIZO(NIES)

経済発展に伴い殺虫剤や除草剤などの化学物質の使用が世界中で普及している。人為由来の化学物質には、生息種の個体数を減少させるなど生態系を悪化させるリスクがあり、その生態リスクは正確に評価されるべきである。経済協力開発機構(OECD)は化学物質のリスク評価のために54個の標準試験プロトコルを提供している。この実験プロトコルはウキクサなどの植物、ミジンコなどの無脊椎動物、メダカなどの脊椎動物など、栄養段階や分類群の異なる様々な種を対象に、化学物質曝露下での生存率や産子数の減少などの個体レベルの影響を主に調べるよう設計されている。その一方で個体数の減少といった個体群レベルの影響評価は試験法において考慮されていない。そのため試験法の多くは、個体群動態の予測に必要な一生涯に渡っての生存・繁殖を測定しておらず、幼若期の生存率といった生活史の一部分のみを評価している。本研究では、OECD試験法が個体群レベルの化学物質リスク評価を行う上で十分な情報を提供できるのかを検討した。まずWeb of Scienceで文献調査を行い、試験対象種の全生活史を反映した個体群行列モデルを入手した。得られたモデルを用いて、試験で測定される生活史過程に対する個体群成長率の弾性度を計算して総和を求めた。全生活史過程を測定している場合この和は1になるので、本統計量は個体群レベルの有効性を割合で示した値として解釈できる。その結果、多くの試験法では個体群レベルの有効性が30~40%のみであることが分かった。一般化混合加法モデルによる回帰分析の結果、個体群レベルの有効性は対象種の分類群に応じて異なっていたほか、生存と繁殖の片方ではなく両方を測る試験法で高いことがわかった。個体群行列の弾性度分析等によって個体群動態において重要な生活史過程を予め調べることで、個体群レベルでの有効性を上げるような試験法の設計・改良を行うことが可能だと考えられる。


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