| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-144  (Poster presentation)

都市における大学キャンパスの倒木リスク管理
Tree fall risk management in an urban university

片山滉平, *小池文人(横浜国立大学)
Kohei KATAYAMA, *Fumito KOIKE(Yokohama National University)

都市の大学キャンパスの樹林には,自己肯定感の向上,日常の満足感・幸福感の向上,孤独感を減少させ憂鬱感・不安感を減少させるメンタルな効果があり,涼しい歩道を提供し日中の気温を涼しく夜は暖かくする温度環境の効果もある.他方で倒木による物的・人的被害や交通障害などのリスクもあり,これを低減する必要がある.両者を同時に満足させるには,正確なリスク評価に基づくバランスが取れた合理的な管理が必要となる.
この研究では,まず胸高直径と樹高データをもとに,樹冠の横断面積(サンプル調査で回帰)を受圧面積として,幹を断面方向1cmごとに区切り,圧縮応力の幹内の最大値を求めた.木材は引張に強いが圧縮に弱いため圧縮弾性限界が重要となる.次に2019年の台風で実際の倒木状況を調査した.最大圧縮応力と倒木(根返含む)のロジスティック回帰では力学モデルの有効性が確認され,針葉樹(圧縮に弱い)の倒木確率は広葉樹より高かった.
リスク評価では30年に一度の強風による倒木確率と倒木エネルギー期待値(倒木確率×位置エネルギー)をキャンパス全個体で計算した.胸高直径と樹高の2次元平面上にこれらの等値線を示し,個体をプロットして管理図を作成した.どちらかの評価値が高い個体を優先的に10年かけて伐採する計画とした.広い樹林内部の個体は倒木しても被害がないため管理せず,落枝は通路上空のみの管理とした.
外来種のクスノキは場所により最大樹高が25mを越え,密植個体は優先的な伐採対象となった.単木は樹高に対して胸高直径が大きいため安全性が高い.海岸自生種のスダジイは最大樹高20m以下であり安全性が高く,亜高木のヒサカキやモチノキ,シロダモ(材は弱いが低樹高),とともに大学キャンパスの樹林の誘導目標にふさわしいと考えられた.


日本生態学会